田渕直也『ファイナンス理論全史』感想(承前)

ブラックマンデー、1987年10月19日何が起きたのか。

その前週、米国株価は10%の下落と雲行きが怪しかった。だがこの日だけでダウ工業株20種の平均株価が22.6%も下げた。これは正規分布を前提とすると6*10の97乗とビッグバンを何回か繰り返しても起こり得ないような確率になる。これは確率がとても低いということ以上に正規分布で株価のうごきを捉えるという考えが見当違いだということを示しているのではないか。なおかつこれほどの下落の原因となったといえるような明確な事件もなかった。

しかしこのような事態が起こりうることはフラクタルの研究者であるブノワ・マンデルブロがすでに示していた。バシュリエの理論をもとにしながら、彼は価格変動の分布を正規分布ではなく、安定分布であるということを明らかにした(安定分布正規分布 )。著者はこれを花粉のブラウン運動観察において、花粉が大きく動いたら水温があがるようなモデルと例える。きっかけはたまたまであるが、それを呼び水に振れ幅が増幅される。

ということで正規分布が想定するよりも値動きは頻繁に極端にうごくことがわかった。だが実務上リスク管理の仕方が根本的に変わったわけではなく、極端な事例について標準偏差ボラティリティを通常時より大きくするといったある意味場当たり的な対応でブラック・ショールズモデルは温存された。

リーマンショックによって現代ファイナンス理論の限界が示される

サブプライムローンの説明は省くが、市場が効率的であるのは限られた局面であるということ、デリバティブ商品や証券化の深化などファイナンス理論が生み出したリスクヘッジ商品がかえって事態を深刻化させた。

1日の下落幅はブラックマンデーのほうが大きかったが、リーマンショックではより長い期間株価は乱高下を繰り返した。

ここまで何度かしめされたようにファイナンス理論におけるリスク管理策は平常時はよいが緊急時の備えはあいまいで恣意的運用になりがちなものである。そのなかでJPモルガンのジェイミー・ダイモンは市場が浮かれているときも厳格なリスク管理を行い、危機を乗り切った。

信用取引における追証リスク管理のための損切などなどこうした取引の仕組みや各取引の基本的戦略が広まれば広まるほどちょっとした値動きが市場の流れを一方向へ一気に傾かせることになる。すなわち皆が賢くなれば、安全になるのではなくかえって危険が増す可能性がある。市場の原理はランダムウォークではなくカオス理論によって解明できるのかもしれない。

ではいかに市場をわたり歩くべきか。

ダニエル・カーネマン、エイモス・トベルスキーは行動心理学を金融市場に適用し、市場の効率化されていない部分を示した。

また超ひも理論の研究者ジェームズ・シモンズはや数学とテクノロジーを駆使して最強のクオンツファンドを作った。秘密主義なので推測にはなるが、市場の小さなアノマリーを見つけ大量の取引を素早く行い利益を積み重ねる。勝ちの確率は数パーセント上回る程度であっても試行回数を極めて高めることで利益を確実なものとする。

なんやかんや書いてきたが素人はインデックス投資して寝てるのがやっぱりいいんじゃろう。あとはお小遣いで暗号通貨買ってずっと握ってるのもまた一興という感じだろうか。やっぱり知らない分野の本を読むことは楽しいことだ。