田渕直也『ファイナンス理論全史』感想

改訂版 金利を見れば投資はうまくいく

敗者のゲーム[原著第8版] (日本経済新聞出版)

これの前に上の2つを読んだ。

金利を見れば』は長短の金利差ほか各種指数等のうごきや関係性をみることで景気の循環を前もって気づけますよという話。自分にはそれぞれの数字にほぼ実感というかなじみが皆無であったため、今の知識ではほおーへーって感じで終わってしまった。もう少し詳しくなってから読んだほうが意義深くなりそう。

『敗者のゲーム』は己の才覚を信じるな、インデックス投資最強!な内容。まあたぶんあっているんだろうけど本だけではいまいち数字の根拠がよくわからんのと、結構繰り返し(大事なことだから…ということだろうが)多い。

そしてこの本『ファイナンス理論全史』が読み物としては圧倒的に面白かった。

相場はランダムウォーク

1900年にルイ・バシュリエ(指導教官はポアンカレ!)が株式市場の値動きがランダムウォークであることを示して以来ファイナンス理論史はこれへの擁護・修正、反駁の相克の歴史であった。

ランダムウォークというのはブラウン運動のようにまったく脈絡なく値が上下するということである。任意期間経過後の値動きの幅をプロットすると正規分布をなす。

平均値と標準偏差を定めれば、値動きは確率的に求めることができる。そのためこれに従って確率が収束する程度取引を行えばよい。

長らくこの理論は世間から顧みられなかったがユージンファーマが効率的市場仮説において効率的に”正しい”市場価格が形成されているのかその度合いによって場合わけを行ったり、カジノ荒らしで有名なエドワードソープが対数正規分布をもとに計算するようになったり、あるいは値動きの”幅”としていたものを”率”と修正されたりした。

そして1973年、ブレトンウッズ体制が崩壊、この年にブラック=ショールズモデルが発表される。これはランダムウォーク理論を実務上取り回しのよいモデルだ。たしかに多少単純化されたモデルであるが、平常時であればまず問題ない。

結局のところ、分散投資インデックス投資が最強?

分散投資の強みはリターンは加重平均されるが、リスク=標準偏差は加重平均よりふつう小さくなる。ただしこれは分散した投資先の市場価格がどの程度連動しているかによって変わってくる。これを突き詰めれば市場全体に投資できるインデックス投資という考え方にいたる。1976年バンガードを創設したジョンボーグルが世界初のインデックス投資商品を発売する。当然インデックス投資ランダムウォーク理論がベースとなっている。

なぜバフェットは成功できるのか?

しかしウォーレンバフェットは優良企業の株を選び、割安に買い長期保有するというやり方で大きな成功を収めている。仮に完全に相場がランダムな動きであればそうはならないではないか。

いつでも市場は効率化されいるわけではない。それゆえバフェットは成功できる。情報が十分にいきわたっていない①小型株、人間心理によって過小評価が過小評価を呼んだ②割安株、これらにおいて市場は十分に効率化されていない。また②のバリエーションといえるが株価が動き始めれば過剰にあがったり、さがったりするモメンタム効果がある(上がったら下がろう、下がったら上がろうという反作用もある)。

切り捨てた例外事象は回帰する、そしてその回避法

(対数)正規分布の切り捨てられていた端の部分、これを無視して果たしてよいのか。よいわけないじゃろう、もっとちゃんとリスクを計算しようというのがVaR(バリューアットリスク)という手法。

ランダムウォークであることを前提とするのであれば、将来の価格を断定的に予測することはできない。このためリターンを得ようとするのであれば、リスクは己の制御可能な範囲で引き受けなければならない。どの程度までリスクを甘受するかはプレイヤーの属人的な判断による。

核戦争だとか宇宙人による地球制服等のリスクまで考慮すると何もできなくなってしまうため、正規分布の山の左側の裾はいくらか切り捨てたうちの最悪のパターンを想定して資産分配をするということになる。

では実際におきた異常事態、ブラックマンデーリーマンショックでは何が起きたのか。(つづく)