マシャード・デ・アシス『ブラス・クーバスの死後の回想』感想

ブラジル文学って読んだことないなあと思い、読んでみた。 率直に申し上げると、あまり刺さらんかった。 現代の日本人30代弱者男性になぜ刺さらんか これは1881年の作品である。小説を読むときに何を期待しているのか。奇想天外な思想、日ごろ見かけない奇妙…

安田峰俊「『低度』外国人材 移民焼き畑国家、日本」感想

例によってキンドルアンリミにて。 現代の奴隷制と名高い技能実習制度で来日した外国人たちを追う。 かつて中国人が主に実習生として日本に来ていたが中国の経済発展とともにベトナム人がメインストリームとなった。日本に来た彼らベトナム人の事例を主に紹…

田渕直也『ファイナンス理論全史』感想(承前)

ブラックマンデー、1987年10月19日何が起きたのか。 その前週、米国株価は10%の下落と雲行きが怪しかった。だがこの日だけでダウ工業株20種の平均株価が22.6%も下げた。これは正規分布を前提とすると6*10の97乗とビッグバンを何回か繰り返しても起こり得な…

田渕直也『ファイナンス理論全史』感想

改訂版 金利を見れば投資はうまくいく 敗者のゲーム[原著第8版] (日本経済新聞出版) これの前に上の2つを読んだ。 『金利を見れば』は長短の金利差ほか各種指数等のうごきや関係性をみることで景気の循環を前もって気づけますよという話。自分にはそれぞ…

二つの株の本の比較

珍しく株の本などを読んでみた。対照的だったので比較しながら感想を述べてみる。どちらもいわゆるインフルエンサー的なひとの本。ちなみに私の金融・経済的知識は赤ちゃんレベルと思ってもらいたい。 1冊目:お金知識ゼロ! 普通の会社員でも株で1億円つくる…

岡檀『生き心地の良い町』感想

自殺率の低い町、徳島県海部町(現海陽町)の秘密に迫る。 ないことの証明 修論を自殺をテーマに書こうと思っていた著者は海部町の自殺率の低さを知り自殺予防因子が何かあるのではないかと探る。悪魔の証明に近しく、実際先行研究においては自殺予防因子に…

西沢大良『現代都市のための9か条』感想

近代建築、近代都市の欠陥を指摘する書。雑誌の連載などの集成。 新型スラムの形成 近代都市は成長を前提とし、(新型)スラムの発生を伴った。近代都市計画はスラムクリアランス(再開発)を試みるが、それは必ず別種のスラム誕生に帰結する。ある部分を「…

小川さやか「『その日暮らし』の人類学」感想

またもkindle unlimitedにて タンザニアを主な舞台に零細商人たちを観察しながらオルタナティブな資本主義のあり方を考える新書。 均質的な時間進行を基礎とし、未来のために現在を投資するという(先進諸国にみられる)資本主義的世界観に疑義を呈する。た…

ジャック・ロンドン『野生の呼び声』『白い牙』感想

いずれも深町眞理子訳、キンドルアンリミテッドにて 『野生の呼び声』1903、『白い牙』1906初出 犬の狼化/狼の犬化あるいは互いの揚棄 雑に言うと前者は犬→狼、後者は狼→犬への移行を描いている。もちろんどちらかを完全に捨て去るということではなく、犬/…

オスカー・ワイルド『ドリアン・グレイの肖像』感想

光文社古典新訳文庫、仁木ひとみ訳、キンドルアンリミテッドにて 概要 ドリアン・グレイ:美しい若い貴族 バジル・ホールワード:新進気鋭の純粋な画家 ハリー・ウオットン:上二人より年上の、皮肉家ないし偽悪家 この3人を主要人物とする象徴主義的傾向の…

アンドレ・ジッド『狭き門』感想

キンドルアンリミテッドにて ファンタズム(幻想)の中で挫折する恋愛。それは思春期ころから始まり、相思相愛であるにも関わらず青年期前半で終わる。 冒頭ではヒステリーの叔母などいくらか他者性をもつ第三者が登場するが次第に主人公ジェロームとヒロイ…

松本卓也『人はみな妄想する』感想

基本的な語彙についての知識を前提としているラカンの入門書。まったくラカンのことを知らない人はワンクッションはさんでからのほうがよいと思われる。 前提 DSM(精神障害の診断と統計マニュアル)を偏重する業界への反駁を動機としてラカンの思想的変遷を…

D・R・クーンツ『ベストセラー小説の書き方』を読む(アクション・登場人物・文体)

アクション プロット:何が起こるか アクション:それがいかに起こるか。 特に初心者はアクションが少なすぎるより多すぎるほうがよい。 殺人、裏切り、航空機事故などプロット上の重大事件は基本的にアクションシーンとして描写したほうがよい。理由なく伝…

D・R・クーンツ『ベストセラー小説の書き方』を読む(プロット他)

先人に学び初心者は原理原則に従い書け。読者のことを適切考えろ。継続せよ。原則を外すのは経験を得てから。と真っ当なことを言ってるが、次作から具体例を持ってくるのでわかりやすい。少し古い米国のことにつき出版戦略的なところは参考まで 前提となる方…

P・オースター『幻想の書』感想

妻子を飛行機事故で失った男が、失踪していた無声映画の喜劇俳優を追う中で自らの生を再び見出す話 読書体験の寓意 芸術は何かについてのものではあってはならない。芸術は芸術そのものでなくてはならない。主人公は妻子を失い自分の生を見失う。その中でた…

高山宏『近代文化史入門 超英文学講義』感想

中世の終わりころから近世の英文学を非常に広範な視野から眺める。マニエリスムのやり方で様々な糸を紡ぎ合わせ驚きを与えてくれる本。 300年忘れられたシェイクスピア 優れてambiguity=両義性、多義性に富んだシェイクスピアだが、それを嫌うピューリタンの…

『一揆の原理』感想

呉座勇一著 これの前に勝俣鎮夫『一揆』を読んだ。 呉座氏のこの本はこれまでの一揆研究に付きまといがちだった左翼的イデオロギーからの解放を目指し、そのうえで現代において一揆のあり方を知る意義を捉えようというもの。 例によって読了からすこし間をお…

『疫病と世界史』感想

ウィリアム・H・マニクール著、初出は1975年=エイズ発見以前 これまでの歴史学では人間の動向を中心に記述していた。コルテスのアステカ征服における天然痘、はしか、ペストなどが代表例であるが、これ以外にも人間同士の相克は様々な細菌、ウイルスに多大…

『反穀物の人類史』 感想

ジェームズ・C・スコット著 立木勝訳 近年隆盛の人類史本のなかでも最もキャッチ―ではないかと思われるこのタイトル、文庫化されれば爆売必定な感もある。 著者は政治学がメインフィールドで本書冒頭で門外漢からの提言であることを示している。定住化及び採…

ようつべを貼りながら好きな音楽を言語化しようとする小修行

日頃より音楽を語る言葉がないなあ、ないなあと己の言語の貧しさを嘆いていたのだがそう思い避けるだけアリ地獄、負のスパイラルパーマなのだよなとハタと膝打ち、いつもキキリリビビィと言いそうになるkiki vivi lilyのライブ動画を視聴しながら筆をこそ取…

『暴力の哲学』感想 

酒井隆史著/河出文庫 キング、マルコムX、ファノン、ガンジー、フーコー、ソローなどを参照しながら、映画、サッカー、ヒップホップなどのキャッチ―な例も交えて展開される熱い本 細かい章分けは略すが、以下のような構成 第一部 暴力と非暴力 第二部 反暴…

『ラカンはこう読め!』 感想

やっぱり話が面白いジジェク先生、そのうさんくさい風貌は我々の幻想を逆用するための確信的なものと改めて感じる。私は彼を信用している。 冒頭にもあるようにラカンを各種作品等に適用することをもってラカン入門とする本書。ある程度ジジェクについて知っ…

『資本主義と奴隷制』 感想

エリックウィリアムズ著 中山毅訳 ちくま文庫表4やあとがきにはプロ倫へのアンチテーゼだっみたいに書かれているが本文中にはあからさまに党派的主張がされているわけではなく、非常に地道な例証が積み上げられている。学芸文庫とはいえ若干のエンターテイ…

MPC IMPACTとSL-1200の肖像 ほか

音楽の本、2つ読みました。 MPC IMPACT!テクノロジーから読み解くヒップホップ 副題のとおりAKAI MPCの前史といえるドラムマシンやサンプラー及びロジャーリン、マイク・マシューズらを追うところから始め、機材の観点からヒップホップ史を辿るという意欲…

『私はなぜ書くのか』マルグリット・デュラス 感想

デュラスのインタビュー本 全12節。幼年期、パリ時代、ひとつのエクリチュールの道程、テクスト分析のために、文学、批評、登場人物のギャラリー、映画、演劇、情熱、ひとりの女、場所 和訳は数冊読んでかなり好きな作家だけどもどういう人かは全く知らなか…

『アラブ、祈りとしての文学』感想

「小説、この無能なものたち」という章で始まるアラブ文学研究者岡真理さんのエッセイ。主にパレスチナの小説を紹介しながら小説に何ができるのかを探る。 サルトルが嘔吐はアフリカの飢えには無力であると言った。あるいはスーザンソンタグを迎えたあるシン…

Hotline Miami 2とピグマリオンとジョンウィック2

コロナ時代の行動様式ってガルシアマルケスの本にありそうだなって思いながら久々にブログ書く。 Hotline Miami 2 ずっと積んでたのをやっとやった。1と比べて2はかったるいところが多いとは聞いていた。視野外からの射撃がたしかにうっとおしい。 1では…

みんなではじめるデザイン批評 (感想とメモ)

わりとさらっと読むタイプの本 デザイナーに対して ①反応型フィードバック:場当たり的、感情的 ②指示型フィードバック:ロジカルな説明のないもの、しばしば個人的または職能的マウンティング含む ではなく ③クリティカルなフィードバック が必要。 まあ当…

最近、見たもの、聞いたもの。

大分時間が空いてしまった。あかんな。 とりあえず最近の記録 ブレードランナー 2049初日18時台にいってきた。2D IMAX 平日とはいえ半分程度の入り。まじですか。 ドゥニ・ビルヌーブさん、複製された男の監督。周りではそんなに評判よくなかったが、私は好…

選挙、台風、散歩

今日は久しぶりに東京堂書店に行ってきた。選挙は結局自民がそんなに議席減らさず、残念です。天気が良ければもう少し違ったのだろうか。 相変わらず無限にいれる場所だが仕事帰りで腹減ってきたので程々にしてきた。 気になった本を羅列する。 ニート期間を…