イェスパー・ユール『ハーフリアル』を読む(Chap.4)
Chapter4 フィクション
ゲームのフィクションはルールに依存する
虚構世界
あらゆる虚構世界は不完全である。なぜならすべてを描写することはできないから。ゆえに欠落部分は受け手によって補充される。この補充は現実世界や当該ジャンルの知識によって行われる。
なぜマリオには3つの命があるのか
多くのビデオゲームでは不完全な世界であることに加え非整合な世界incoherent worldを提示するものがある。アーケードゲームでは歴史的にプレイヤーには3つのライフが与えられてきた。そして『ドンキーコング』においてもそれは踏襲されている。だがこのマリオの3つの命の根拠についてはゲーム内の虚構世界では説明されない。あくまでゲームの難易度上の要請といったルール的説明ができるのみである。
抽象と具象のあいだ
ゲームを分類するのに抽象的ー具象的というスペクトラムを想定することができる。
これをもとに主要な5分類を以下のとおりにしてみる。
1.抽象的ゲーム abstract games
チェッカーや『Tetris』
2.アイコン的ゲームiconic games
たとえばトランプのデッキに含まれるハートのキングは王様を表象しているが他のスートのキングやその他の人物とどのような関係性にあるかは明確化されていない。
3.非整合的な世界を持つゲーム incoherent world games
先の『ドンキーコング』やチェス。チェスはある二勢力の抗争を表象しているが、なぜクイーンがキングの8倍の機動力を持つかはルール的な説明しかできない。
4.整合的な世界を持つゲーム coherent world games
世界を詳細に想像することを妨げられないようなゲーム。大半のADVゲームなど
5.舞台上のゲーム staged games
抽象的(またはわずかに具象的な)ゲームがより作り込まれた虚構世界の内部でプレイされる場合。『Denki Blocks!』や『メイド イン ワリオ』。また『シェンムー』もこの要素がある。
虚構世界の作り方
ゲームではグラフィック、サウンド、テキスト、カットシーン、タイトル、パッケージ、説明書、ハプティックス(パッドからのフィードバックなど)ルールなど
ここでは概ね省略するが噂という点を取り上げる。
ゲームにおいてはすべての情報をアクセスするためには一定のスキルが要求される。このため誤情報が噂となることがしばしばある。(映画などでもすべての情報に必ずしも皆がアクセスできるわけではないがゲームの方がその度合いが強いであろうということ)
任意選択的な世界と非整合的な世界
『Quake Ⅲ Arena』ではプレイヤーが習熟するにつれてグラフィックスの設定を下げfpsを稼ごうとする傾向があった。これはプレイヤーが次第にフィクション的側面からルール的側面に力点を動かしてきたことを意味する。
また非整合的な世界を持つゲームはプレイヤーがゲームの慣習を理解している限り問題が生じない。ゲームに描かれているフィクションは真に受けてもいいが、そうでなくともよい。
ゲームにおける時間
トーマス・パヴェル「ごっこ遊びは二重の構造をもつ」例えばプレイヤーはキーボードのキーを押すとともに、ララ・クロフトを動かしている。このような二重性は空間的なものだけでなく時間的にも存在する。
プレイ時間と虚構時間の結びつきは投影projectionとして記述できる。リアルタイムゲームは一対一対応をし『SimCity』では可変的だ。
カットシーンでは虚構時間上のイベントを描くが、(プレイヤーが操作できない場合は)投影関係は切断される。
ゲームは基本的に時系列順になることが多い。フラッシュフォワードの場合はゲームプレイの意味がないことになりかねないし、インタラクティブなフラッシュバックの場合はタイムパラドックスが生じる。
非整合性は時間においてもある。例えばBF1942のラウンド間の変遷は特にフィクション的説明はない。
『Sims』においてゲームをポーズにすれば住民の動きは止まるが、住民がかけていたCDの音は流れ続ける。整合性の観点では矛盾するが雰囲気の維持には役立つ。非整合なダイエジェティック空間。ダイエジェティックについては以下参照第4回 学びどころの多いゲームデザインの世界:UI/UX 未来志向―進化の方向を予測し,今必要なことを知る|gihyo.jp … 技術評論社
またサッカーゲームにおいては画面表示上の時間(90分換算されている)とプレイ時間は非整合であるがプレイヤーはそれほど気にしない。
ゲームと物語
物語ということばはかなり幅広い意味でつかわれるので注意しないと議論がかみ合わない。著者は先行研究を参照して以下6種挙げる。
①複数の出来事の提示。字義通りの意味
②固定され、あらかじめ定められた一連の出来事
③特殊な種類の一連の出来事
④特殊なテーマ(人間または擬人化された実体についてのもの)
⑤あらゆる種類の舞台設定または虚構世界
⑥われわれが世界を理解する仕方
創発的物語 例えば『Sims』ではプレイヤーごと特有の物語を経験する。また恋愛やトラブルなどが起きやすいようにゲームがデザインされている。
一般的にゲームの目標は感情的にポジティブである必要がある。プレイヤーの結果に対するこだわりを引き出しづらくなるため。ただし工夫によっては回避することもできる。
ゲームにおけるフィクション
一般にゲームは他媒体に比較して非整合な世界の描写を許される。