高山宏『近代文化史入門 超英文学講義』感想

中世の終わりころから近世の英文学を非常に広範な視野から眺める。マニエリスムのやり方で様々な糸を紡ぎ合わせ驚きを与えてくれる本。

300年忘れられたシェイクスピア

優れてambiguity=両義性、多義性に富んだシェイクスピアだが、それを嫌うピューリタンの数学者らからなる王立協会の隆盛により軽んじられ、忘れられる。それは口誦文化から活字文化の転換である。劇場封鎖令も出される。ジョンダンも読まれなくなる。

マニエリスム

マニエリスムとは世界が荒廃していく/拡大していき、世界が分断されていく(ように感じる)際にそれでも世界はひとつにつながっているのだということを示す態度。またそのことによってすげえ(ワンダー/ブンダー)と感じさせる。

歌舞伎における「外連」も舞台演劇をはじめ芸術において軽視すべきではないのではないか。

ニュートン光学

ニュートンを読んだ詩人は網膜retinaを意識するようになる。光と色に関する知識を得る。色も細分化して認識するようになる。ニュートン以前の詩には動詞が大半を占めていたがそれ以降は減り、目的語や修飾語が増え叙述的、描写的になっていく。

そのほかトピックス

かなり広範にわたる話でこれらをまとめる能力がない。そのため以下気になったところをピックアップし羅列する。

  • ダニエル・デフォー(1660-1731)の時代はnews/novelの境はあいまいだった。
  • 「ファクト」がラテン語の「作られたもの」という意味から「事実」「確証あるデータ」という意味になったのはOEDによると1632年
  • 推理小説=暗号学=兌換貨幣、デリダの仕事も暗号解読技術
  • ピクチャレスク=ラギッド、日本でいう見切り、英国式造園術、ピカレスクロマン、徒歩蛇行脱線(なんとなくハウステンボスブレイクビーツが思い浮かぶ)
  • 代書屋→小説家、書簡体/覗き見文学、サミュエル・リチャードソン『パミラ』『クラリッサ』。部屋に閉じ込められた女性が日記をかく。(映画『本を読む女』に言及されていたが、最近では『お嬢さん』があった。)
  • 観相学バルザック、本来的に彼はジャーナリスト、『歩行の理論』参照。観相学は人間が密集して生活し都市が形成され見知らぬものとの接触機会が増加したことから流行した。人間を分類する。(最終的には骨相学→優生学に至ってしまう)
  • 分類学はキャビネットオブキュリオシティーズ→博物館→デパートへ
  • バルザックのリアリズム→ドイルの推理小説

「ディティールを積み重ねると、必ずリアリティに突き当たる」というリアリズムの根本の観念は、細かいディティールを積み重ねていけば、必ず犯人に行き当たると信じている探偵の確信とぴったり重なる。推理小説とはつまりメタ・リアリズムなのだ。(pp235-236)

  • 眼科医だったドイルは何かをみれば何かがわかるという人間だった。シャーロックホームズは恐ろしいほどの視力を持っていた優れた観相術家。それが晩年オカルトにはまる。見えないものを見ようとすること。ディテクティブのdetectももとは「屋根のついた建物の屋根をはがす」の意
  • 推理小説の時代のおわり、現象学量子力学キュビズムの起り

博覧強記というのはまさにこのことだろう。あれとこれがこうつながって、へーすごいなーというまさにマリエリスムという感じ。著作は膨大な領域に及ぶのでこれからもちょくちょく読んでいきたい。