イェスパー・ユール『ハーフリアル』を読む(Chap.3 前編)

Chapter 3 ルール

ゲームがenjoyableであるのは①挑戦課題の解決による達成感をプレイヤーが楽しむ②複数人参加型においては他者との競争や協力を楽しむという点が主要な要因であるが、そのような場でルールはどのように機能するのか。

1.具体的な個々のルールは、それをどう運用するかについて参加者が合意できる程度に十分に明確でなければならない。この意味で、ゲームのルールは議論の余地がないように設計されるものだ 。ルールは、プレイヤーにできることとできないこと、それからプレイヤーの行為に対する反応としてどんなことが起きるかを定める。ルールは、創意工夫なしに具体化できるものでなかればならない。

2.ひとつのゲームに諸々のルールは、全体としひとつの状態機械(state machine)を作り上げる。つまり、プレイヤーの行為に反応を返すある種の機械だ(そのゲームがコンピュータを使ってプレイされるものであるかどうかは関係ない)。

3.このゲームの状態機械は、可能性の地図として視覚化できる。ようするに、ゲームの進行に沿って、ある可能な局面から別の可能な局面へと枝分かれしていくゲームツリーとして視覚化できる。ゲームをプレイすることは、状態機械とやりとりしながら、そのゲームツリーを進んでいくことにほかならない。

4.ゲームは複数の結果を持つわけだが、プレイヤーはその中でもできるだけポジティブな結果に到達できるように努力しなければならない。ふつうは、ネガティブな結果よりもポジティブな結果にたどりつくほうが難しい。つまり、ふつうは負けるよりも勝つ方がたいへんなのだ。それゆえ、ポジティブな結果に向かって努力するかぎりで、プレイヤーは挑戦課題(challenge)に直面することになる。

5.プレイヤーは、この挑戦課題を乗り越えようと試みる。このとき、そのゲームが実際にプレイされるそのあり方が、当のゲームのゲームプレイ(gameplay)だ。つまり、ゲームプレイとは〈ルール〉と〈できるだけうまくプレイしようとするプレイヤーの試行〉の相互作用のことだ。

6.プレイヤーは、ゲームをするなかで自身のスキルを上達させていく。そのかぎりで、ゲームは学習経験だ。どんな場面であれ、プレイヤーは、乗り越えるべき挑戦課題に対して役立つスキルと手法のレパートリーをその都度持っている。いいゲームの魅力のひとつは、挑戦課題を次々に提供することで、プレイヤーのレパートリーに対してどんどん新しい要求をしていくというところにある。

7.個々のゲームはいろいろだ。より挑戦しがいのあるゲームもあれば、そうでないものもある。特定の種類の挑戦課題を押し出すゲームもある。場合によっては、何かしらの社交の口実として使うためのゲームもある。これらはすべて、ルールがプレイヤーに楽しい経験を与える仕方だ。そして、異なるゲームはそれぞれ異なる経験を生み出すことができる。 p.78

Chap.2の繰り返しにはなるがプレイヤーに挑戦課題を与えるのは創発(emergence)と進行(progression)によるものがある。

ルールとはなにか

ルールとは制限limitationであるという人たちがいる。例えばバーナード・スーツやサレンとジマーマンである。しかしこれはルールの一側面である。禁止されていない行為に意味を与える。プレイヤーに意味ある行為をとることを可能にaffordしている。という側面もある。ルールはゲームに構造を与える。あるゲームが物理法則に従っている場合はそれもルールと見做すことができるだろう。

戦略と状態機械

ゲーム理論で言われるように戦略とルールは混同してはならない。また「不/完全戦略」、「支配戦略」、「不/完全情報ゲーム」といった概念も導入しておく。

諸々のルールはひとつの状態機械を作る。換言すると初期状態からある入力を受け付け関数を経ることで特定の出力を行うもの。

  • ルールはアルゴリズムであり、脱文脈化が可能でないといけない。
  • 非明示的ルールもある。例えばスポーツマンシップなど。これらはしばしば曖昧なものである。またスポーツにおける物理法則も非明示ルール。
ルールの構造―創発型ゲームと進行型ゲーム

進行型ゲーム:連続する挑戦課題をそれぞれ直接的に提供 『The Hobbit』(トールキン原作のADV)

創発型ゲーム:諸々のルールの相互作用により挑戦課題が生じる『Pong』

これに似ている情報量重視型―処理重視型という区別を(処理重視の方が上等であると規範的に)示したのはクリス・クロフォード。

  • 「望ましくない」創発の例として『DeusEx』の近接地雷による壁のぼり
  • 創発型ゲームは複雑性の科学という点からも理解できる。すなわち諸要素の総和=全体のゲーム経験とはならない
ゲームプレイ―ルールの実行

Counter-Strike』と『Quake Ⅲ Arena』の比較をする

CSはQuakeからラウンド中のリスポンがない、チームとしてラウンドの勝利という目標を追加といったルールの変化によってゲームプレイがかなり異なるものになった。

CSではチームプレイが重要であるし、移動もより慎重になる。またこういったゲームプレイの変化はゲームの外側にも影響を及ぼす。すなわちチームプレイのゲームは一般的にコミュニティが広がりやすい。

(後編へ続く)